小説

scene2 包みこまれるこころ

 ベッドにごろりと横になり、右手をかざす。 遠く。天井を背景に、わたしのちいさな右手。その中指にはまる、銅色の指輪。 何度見返ししても、それは変わることなくわたしの指で鈍く光っていた。「はぁ……」 いく度目かの、深いため息。 手をおろして。…

scene1 はじまるための儀式

 あおい空。満開のさくら。さしこむ光はまぶしくて、あたたかい。 わたしは、白亜の講堂にたっていた。 窓からさしこむ陽の光に、石造りの白い床がきらきらと輝いて。 窓から見える景色は、白い壁に赤い屋根の建物を、豊かな緑がつつみ込んでいる。 知ら…

奇妙な相棒

 ずっと、ひとりだった。 確かに、仲間には恵まれた。 認めてくれる人達は、確かに存在した。 それでも。 自分は、ずっとひとりだと思っていた。 失ってしまったあの時から。  夜の森。 漆黒の空に伸びる枝葉。隙間から、白い月明かりが薄…

月のしるべ

※深淵第2版のイメージテキストです。  貴女は、全てを持っていた。 地位も。お金も。美貌も。 賢くて。高潔で。芯が強くて。 貴女は、完璧な人間だった。 私には、何もなかった。 そこに存在したのは。 過酷で。理不尽で。屈辱的な運命。…

エピローグ

 森の奥から、いくつも筋状の煙が上がっていた。 俺は、その煙を横目に森から出ようと足を速める。 あの後、盗賊団の頭は後始末をするからと力を失ったサシャの身体を抱えてアジトへと戻っていった。煙の具合から、脱出する際に燃やした入口だけではなくア…

第四章 闇の石 三

 木々の間から差し込む朝日が眩しかった。 すり抜けてゆくそよ風が、心地よかった。 だが……「助けてもらったことについては礼を言う。だが、何故殺した」 夢幻は、苦々しい思いとともに言葉を吐き出した。 ウリルは、夢幻が言っていることの意味がわか…

幻影の少女

 夢を見る。 今はない故郷の夢。 溢れる緑。流れるせせらぎ。 穏やかに流れる刻。 そして。 眩しいほどに、赤い少女。 あの頃は、それが永遠に続くと思っていた。 平穏で。何も変わらず。 あの頃は、それが嫌だった。 外の世界を。夢見続けていた。…

第四章 闇の石 二

 その男の姿を認めるや否や、夢幻は走り出していた。 地面を蹴り、長剣を抜き。狭い通路の壁と、ほとんど影にしか見えない男の間のわずかな隙間に突っ込む。 ガキイィィィン! 金属がぶつかり合う甲高い音が響き渡る。 弾き飛ばされる身体。それを見て、…

第四章 闇の石 一

「シュンはね、ウリルのことが好きだったの」 サシャが呟く。歌うように。囁くように。 もう動くことのないシュンの頭を膝の上に乗せて、優しく撫で続けている。 その身体は急速に冷たくなっていき、血液も、それ以外の体内に収まるべきものも、あふれてこ…

第三章 盗賊団 三

 ガンッ!ガンッ! 断続的に殴りつけられる音。その度に扉がたわみ、部屋が衝撃に揺れる。 打撃音に混じって聞こえるのは、うなり声。息づかい。特有の、嫌な気配。間違いようもない。魔物のものだ。 何故、巧妙に隠されているはずのこのアジトが魔物に襲…

第三章 盗賊団 二

 サシャが規則正しい寝息を立てたのを確認してからその身体に布団をかけ直すと、ウリルは静かに寝室を出た。 ずっと開けっ放しになっていた寝室の扉を、大きな音が立たないようにそっと閉める。扉がきちんと閉まったことを確認してから、ウリルは窓辺に向か…

第三章 盗賊団  一

「突然呼び出してすまないな」 執務用の机から立ち上がって、そいつは申し訳なさそうに言った。「別に、気にしなくていいわよ。そんなに忙しく過ごしているわけでもないし、私は、貴方の下についているわけだしね」 知っている。 申し訳なく思っているのは…