小説

夢幻1 第三章 盗賊団  一

「突然呼び出してすまないな」 執務用の机から立ち上がって、そいつは申し訳なさそうに言った。「別に、気にしなくていいわよ。そんなに忙しく過ごしているわけでもないし、私は、貴方の下についているわけだしね」 知っている。 申し訳なく思っているのは…

夢幻1 第二章 魔道士 三

 盗賊団の頭であるウリルに先導され、夢幻は森の更に奥までやって来た。 バルガを始めとした盗賊団の面々は、ウリルの指示により森の巡回に散って行った。そのため、今ここにいるのは夢幻とウリルの二人だけである。 道中、会話は一切なかった。 森の中を…

夢幻1 第二章 魔道士 二

 早朝の森は、深い霧と静寂に包まれていた。 しっとりと湿気を帯び、ぬかるんだ地面を踏みしめて。夢幻は森の奥へと向かっていた。 天候と時間の条件があまりよくない割りに、道程は順調であった。警戒していた、魔物の襲撃もない。時間帯の問題なのか、そ…

夢幻1 第二章 魔道士 一

 夢幻が村に到着したのは、すっかり夜も更けてからであった 大陸警備機構仕込みの追跡術を駆使して女を追った結果、痕跡はこの村の方向に続き。村の手前で唐突に途切れた。 故意に痕跡を消した。明らかに、そんな感じであった。そのような技術は、当然存在…

祭の夜に

※1996年に発表した作品を大幅に加筆修正したものです。  控え室を出たあたしの目の前に、一輪の小さな野花が差し出された。「え…あたし…に?」 驚いて尋ねると、野花の差し出し主は黙ったままこくりと頷いた。 あたしと同じくらいの年頃…

創世語(そうせいのかたり)

 街の酒場は、昼と夕の狭間という中途半端な時刻にも関わらず混雑していた。 大半は休憩中の船乗りや職人達で、真っ昼間から豪快に酒をあおっている者も多い。それに混ざって旅人らしき姿がちらほら、といったところだろう。混雑した酒場では、それらの者が…

銀月闇光(銀の月、闇を照らす)

※FINAL FANTASY11のイメージテキストです。  光あるところにまた、闇があるように この世界に、裏の世界が存在するのを知ったのはいつの事だっただろうか 闇霧に包まれたその世界に何度挑み、幾度破れただろうか 闘いが始まっ…

夢幻1 第一章 出会い 三

「夢幻!またこんなところでサボって!」 頭上から降り注ぐ、鈴を鳴らしたような愛らしい声。 その声に少年は、閉じていた瞳を薄く開いた。 視界に飛び込んできたのは、うたた寝をしていた少年にとっては、まぶしすぎる陽の光。そして、それよりもさらにま…

夢幻1 第一章 出会い 二

「ここまで来れば、大丈夫か」 森を抜け、街道まで出たところで、ようやく夢幻は足を止めた。 振り返り、森の入り口を見る。 来た時と同じく、広がるうっそうとした木々。そこに、動くものの姿は見当たらない。 ふう。 安堵のため息をもらす夢幻の耳元で…

夢幻1 第一章 出会い 一

 森の中に、一人の男が立っていた。 頭の高い位置でひとつにまとめられた、長い銀色の髪。油断なく辺りを見すえる紫水晶の瞳。黒服の上に、紺色のフード付きローブを、そでを通さずにマントのように羽織った長身。 そして、左手に抜き身の長剣をぶら下げて…

夢幻1 プロローグ

 夕刻の酒場で、二人の男が向かい合い、話をしていた。 片方は、年配の商人風の男。もう片方は、若い旅人風の男である。 二人の口調は終始穏やかで。居合わせた客同士が世間話をしているように見えなくもない。しかし、少し勘の良い人間が見れば、その光景…