まほうのゆびわ

この世界には、二種類の人間が存在する。

特別な力を持たない、普通の人間。

そして。

魔力という力を持って生まれた、特別な存在。

わたしは、普通の人間だった。

そう。

あの人に、声をかけられるまでは。

「君には、魔力があるね」

 

 

  • scene1 はじまるための儀式

     あおい空。満開のさくら。さしこむ光はまぶしくて、あたたかい。 わたしは、白亜の講堂にたっていた。 窓からさしこむ陽の光に、石造りの白い床がきらきらと輝いて。 窓から見える景色は、白い壁に赤い屋根の建物を、豊かな緑がつつみ込んでいる。 知ら…

  • scene2 包みこまれるこころ

     ベッドにごろりと横になり、右手をかざす。 遠く。天井を背景に、わたしのちいさな右手。その中指にはまる、銅色の指輪。 何度見返ししても、それは変わることなくわたしの指で鈍く光っていた。「はぁ……」 いく度目かの、深いため息。 手をおろして。…

  • scene3 わたしのしらない世界

     ならべられた机と椅子。一段たかくなった教壇。ふかみどり色の、黒板。 天井はたかく、窓からさしこむ陽の光に、純白の床がきらきらときらめく。 多少、内装が豪華なことをのぞけば、わたしが今まで行っていた学校の教室と変わらない。 机の上にならべた…

  • scene4 ただしいまほうの使い方

     魔法とは、この世界に存在する唯一の、実用に耐えうるエネルギー源である。 その強大な力により文明は発達し、人々の暮らしは豊かになった。 魔法を使うことができるのはひとにぎりの存在。 生まれつき、魔力をその身に宿す選ばれた者のみである。 故に…

  • scene5 いつかはばたくその翼

     わたしは、走っていた。 広いろうかを。階段を。 追い立てられて、走っていた。 どこまで続くのかわからない。長い、ながい階段をかけあがる。 いくらこの建物の構造を完全に理解していないわたしにだって、わかる。 わたしは、完全に追いつめられてい…

  • scene6 夢はまぼろしなんかじゃなくて

     熱くて。息苦しい。 暗闇の中で、わたしはただあえぐように呼吸をすることで精一杯で。 こんなこと。初めてのこと。ではない。 そう。覚えている。まだわたしが小さかったころ。 体の弱かったわたしは、しょっちゅう原因不明の高熱を出していて。「おか…

  • scene7 わかりあえる想い

    「リマ・メルカートル、やっと見つけましたわ」 寮を出たところで、そんな声が響き、わたしはびくりと振り返った。 金髪巻き毛の少女、アンジュ・ノーヴィリスが、寮の戸口に仁王立ちしていた。「きょ、今日は、アナタにお話があってまいりましたの。少し、…

  • scene8 みらいへの約束

    「失礼します」 放課後。 魔法の個人授業のために教室を訪れたわたしを待っていたのは、担任教師だけではなかった。「学園長!それに……」 学園長のうしろに立つ黒い姿に、わたしは言葉を詰まらせた。「ひさしぶりだね。リマ」 イデアル・リベリオー。わ…