まほうのゆびわ

scene8 みらいへの約束

「失礼します」 放課後。 魔法の個人授業のために教室を訪れたわたしを待っていたのは、担任教師だけではなかった。「学園長!それに……」 学園長のうしろに立つ黒い姿に、わたしは言葉を詰まらせた。「ひさしぶりだね。リマ」 イデアル・リベリオー。わ…

scene7 わかりあえる想い

「リマ・メルカートル、やっと見つけましたわ」 寮を出たところで、そんな声が響き、わたしはびくりと振り返った。 金髪巻き毛の少女、アンジュ・ノーヴィリスが、寮の戸口に仁王立ちしていた。「きょ、今日は、アナタにお話があってまいりましたの。少し、…

scene6 夢はまぼろしなんかじゃなくて

 熱くて。息苦しい。 暗闇の中で、わたしはただあえぐように呼吸をすることで精一杯で。 こんなこと。初めてのこと。ではない。 そう。覚えている。まだわたしが小さかったころ。 体の弱かったわたしは、しょっちゅう原因不明の高熱を出していて。「おか…

scene5 いつかはばたくその翼

 わたしは、走っていた。 広いろうかを。階段を。 追い立てられて、走っていた。 どこまで続くのかわからない。長い、ながい階段をかけあがる。 いくらこの建物の構造を完全に理解していないわたしにだって、わかる。 わたしは、完全に追いつめられてい…

scene4 ただしいまほうの使い方

 魔法とは、この世界に存在する唯一の、実用に耐えうるエネルギー源である。 その強大な力により文明は発達し、人々の暮らしは豊かになった。 魔法を使うことができるのはひとにぎりの存在。 生まれつき、魔力をその身に宿す選ばれた者のみである。 故に…

scene3 わたしのしらない世界

 ならべられた机と椅子。一段たかくなった教壇。ふかみどり色の、黒板。 天井はたかく、窓からさしこむ陽の光に、純白の床がきらきらときらめく。 多少、内装が豪華なことをのぞけば、わたしが今まで行っていた学校の教室と変わらない。 机の上にならべた…

scene2 包みこまれるこころ

 ベッドにごろりと横になり、右手をかざす。 遠く。天井を背景に、わたしのちいさな右手。その中指にはまる、銅色の指輪。 何度見返ししても、それは変わることなくわたしの指で鈍く光っていた。「はぁ……」 いく度目かの、深いため息。 手をおろして。…

scene1 はじまるための儀式

 あおい空。満開のさくら。さしこむ光はまぶしくて、あたたかい。 わたしは、白亜の講堂にたっていた。 窓からさしこむ陽の光に、石造りの白い床がきらきらと輝いて。 窓から見える景色は、白い壁に赤い屋根の建物を、豊かな緑がつつみ込んでいる。 知ら…