四 幻影の少女

 夢を見る。

 今はない故郷の夢。
 溢れる緑。流れるせせらぎ。
 穏やかに流れる刻。
 そして。
 眩しいほどに、赤い少女。

 あの頃は、それが永遠に続くと思っていた。
 平穏で。何も変わらず。
 あの頃は、それが嫌だった。
 外の世界を。夢見続けていた。

 だけど、今ではそれこそがゆめまぼろしで。
 故郷とは違う景色を眺め。
 故郷とは違う喧騒を耳に。
 たまに訪れる空白の時間。
 失った故郷を。少女を夢に見る。

 時の流れは、非情でありながら優しくて。
 あれほど痛かった心も、今はそれほど辛くはない。

 それでも。

 まぶたを閉じれば鮮明に蘇る。
 変わらない姿で。変わらない表情で。
 幻影の少女はいつだって微笑みかける。

 遠くから。
 自分を呼ぶ声に、まぶたを開く。
 まぼろしは霧散して。
 そこに映るは現の世界。

 だけど。

「いつか、必ず」
 再び巡り逢う。
 確信に近い予感。

 だから。

 拳を握り締め。
 俺は、立ち上がる。
 しっかりと二本の足で大地を踏みしめ。
 前へ進む。

 いつか、必ず来るその日のために。