親愛なるあなたへ

一 親愛なる貴方へ

 憧れの人がいた。 とても身近な存在で。 とても頭がよくて。 とても強くて、格好よくて。 そして私を、とても愛してくれた。 だけどある日、 永遠に失ってしまった。 突然の別れに、どうしていいかわからなくて。 周りには平然を装っていたけれど。…

二 女神はうたう

 子供のころ通っていた教会に、一枚のレリーフが飾られていた。 描かれていたのは、ひとりの女性の横顔。 長い髪を風になびかせて。 うたうように。祈るように虚空を仰ぎ見る。 それはこの世界を救ったと云われる女神。 その表情は穏やかで。慈愛に満ち…

三 贖罪

 私には、心がなかった。 無表情。無頓着。酷薄。 何を考えているのかわからない。 情というものを、感じない。 そんな周囲の風評を、私はただ客観的に眺めていた。 反論はなかった。 考え方を改めることもなかった。 私には、他の考え方がわからなか…

四 幻影の少女

 夢を見る。 今はない故郷の夢。 溢れる緑。流れるせせらぎ。 穏やかに流れる刻。 そして。 眩しいほどに、赤い少女。 あの頃は、それが永遠に続くと思っていた。 平穏で。何も変わらず。 あの頃は、それが嫌だった。 外の世界を。夢見続けていた。…