夢を見る。
今はない故郷の夢。
溢れる緑。流れるせせらぎ。
穏やかに流れる刻。
そして。
眩しいほどに、赤い少女。
あの頃は、それが永遠に続くと思っていた。
平穏で。何も変わらず。
あの頃は、それが嫌だった。
外の世界を。夢見続けていた。
だけど、今ではそれこそがゆめまぼろしで。
故郷とは違う景色を眺め。
故郷とは違う喧騒を耳に。
たまに訪れる空白の時間。
失った故郷を。少女を夢に見る。
時の流れは、非情でありながら優しくて。
あれほど痛かった心も、今はそれほど辛くはない。
それでも。
まぶたを閉じれば鮮明に蘇る。
変わらない姿で。変わらない表情で。
幻影の少女はいつだって微笑みかける。
遠くから。
自分を呼ぶ声に、まぶたを開く。
まぼろしは霧散して。
そこに映るは現の世界。
だけど。
「いつか、必ず」
再び巡り逢う。
確信に近い予感。
だから。
拳を握り締め。
俺は、立ち上がる。
しっかりと二本の足で大地を踏みしめ。
前へ進む。
いつか、必ず来るその日のために。