月のしるべ

※深淵第2版のイメージテキストです。

 

 貴女は、全てを持っていた。
 地位も。お金も。美貌も。
 賢くて。高潔で。芯が強くて。
 貴女は、完璧な人間だった。

 私には、何もなかった。
 そこに存在したのは。
 過酷で。理不尽で。屈辱的な運命。
 耐えられたのは、外に路がなかったから。
 全てを諦めて、心を押し殺したから。

 私には、何の感慨も。希望もなかった。

 それなのに。私は知ってしまった。
 自分達とは違う主従関係を。
 貴女の。一人の女性としての。
 人間らしい本音を。

 それは。私にとっての恐怖の始まりで。
 同時に。切なくて。苦しくて。
 今までに感じたことのない。胸の高鳴りを覚えた。

 そして。気づいてしまった。
 私にぶつけるその痛みは、貴女自身の、心の痛み。
 私を傷付けるその度。
 貴女の心は。人知れず。私以上に傷付いていった。

 貴女の想いを知ってから。
 私は耐えられなくなっていた。
 貴女の。
 完璧な微笑みの下に隠れる、その悲しみに。

 だから。私は叫ぶ。

 これ以上。苦しまないで。
 悲しい想いを。押し込めないで。
 貴女の苦しみも、悲しみも。
 全て私が受け止めます。

 貴女のためなら。
 私は何だってできる。

 だからどうか。
 最後まで寄り添い続けること。お許しください。