きゆるんねっと+

バレンタインの受難

御堂綱紀は、上機嫌で石畳の通りを歩いていた。
片手に持った袋には苺にバナナといったフルーツ、マシュマロに鈴カステラ、生クリーム。そして、数枚の板チョコが入っていて。
要するに、チョコレートフォンデュの材料を抱えていた。

先日。シウグナスと共に歩いている時に、店先に綺麗な缶に入ったチョコレートが売られていて。その際に、バレンタインが近いことに気が付き、そのイベントについての説明をしたのである。

せっかくやし、シウグナスと一緒にチョコレートフォンデュでもしよう。

そう、思い立ったのだ。
吸血鬼であるシウグナスは、人並みの熱を持たないためチョコレートを口内で溶かして食べることができない。だけど、フォンデュにすれば溶けた状態で頂けるし、万一口の中で固まったとしても薄くなってパリパリして、それはそれで美味しいだろう。
それに、愛する人と一緒に食べるチョコレートフォンデュは想像するだけで幸せな気分になって、思わず表情も綻んでしまう。

「ただいま帰ったで」

借りているアパートの扉を開けて。

「おかえり綱紀。待っていたぞ」

ドアの前で仁王立ちするシウグナスの姿を認めて。
綱紀は、物凄い勢いで扉を閉めた。

「待て!何故閉める?!」

扉の向こう側から、シウグナスの叫び声が聞こえる。とりあえず、一旦深呼吸して。

「何故はこっちの台詞や!闇の王さん、何して…」

叫び返そうとして。これは完全に近所迷惑だということに気が付いて、我に返って。
諦めてなるべく細く扉を開けて部屋に滑り込んで、可及的速やかに扉を閉めて。

「なして、そんな格好、してはるの…?」

恐る恐る、疑問を口にする。
シウグナスは全裸で、アソコが比喩でもなく黒光りして、そそり立っていた。そして何故かカラフルな粒で彩られている。その見た目はまるで…

「バレンタインというのは、愛する人にチョコを贈るイベントなのだろう?君に最高のチョコを味わってもらおうと思ったのだ」

ふふ。と、自信満々な表情を浮かべるシウグナス。
綱紀は頭を抱えた。
気のせいでも見間違えでもなく。シウグナスの股間はまるでチョコバナナのごとくチョコレートでコーティングされ、カラースプレーでトッピングまでされていた。

「食べ物で遊んだらあかんで。きちんと洗い流してきてくださいね」

なるべく直視しないようにしながら横をすり抜けて部屋の奥に入ろうとして。

「待て、何故拒否するのだ」

腕を掴まれる。

「嫌に決まってるやないですかそんなん」
「君が食べてくれないのなら、このまま君の下のお口に突っ込むことになるが?」

言いながらも、押し倒さんとばかりに壁に押し付けてくる。その表情は、完全に本気だ。

「わ、わかった。わかったからそれだけは堪忍して」

自分の中から溶けたチョコが流れ出してくるのは、見た目的に洒落にならない。
とりあえず汚してしまわないようにビニールシートを敷いてから座ってもらって。自分も一旦荷物を片付けて上着を脱いで手を洗ってくる。
そうしてから、改めてシウグナスの…股間からそそり立つチョコバナナと対面する。

「うっわ、さすが吸血鬼の体温。完全に固まってはる」

爪先で少しだけ叩いてみれば、コーティングしているチョコはやわらかいどころか、全く溶けている気配がなく、かっちりと固まっていた。
意を決して先端部分に口付ければ、薄く固まったチョコは唇の温度ですぐに溶けて控えめな甘さと深みのあるカカオの香りが口内に広がった。

「えっ、うま…」

品のない見た目とは裏腹に、明らかに普段食べている安物のチョコではない味に驚く。

「そうだろう?君のために少し高めのチョコを選んでみたのだ」
「出来れば普通に食べたかったわ」

得意げにふんぞり返るシウグナスに冷静にツッコミを入れて、無心でチョコを舐め取る作業に戻る。
チョコ自体はめちゃめちゃ美味しいせいで、正直安物のカラースプレーが邪魔に感じる。だけど、勿体ないという悲しい性に駆られて途中で止めるなんて選択肢もなくなっていて。

ペロペロ、もごもご、ペロペロ…

コーティングがチョコバナナのチョコのごとく薄かったこともあり、そう時間がかからず全て舐め取られてシウグナスのモノが露わになる。

「ふぅ、綺麗になったわ。ごちそうさん。でももうやらんでええからな」

舐め残しがないことを確認して、綱紀はさっさとシウグナスから離れた。
あまり後を引かせると変な気分になりそうだったから。
だけど。

「綱紀、待て」

呼び止められて、振り返る。
シウグナスは、どこから取り出したのか洒落たデザインの小箱を持っていて。

「実は、もう一つ用意してあるのだ」

自信満々な様子で箱を開けて中を見せてくる。
そこには、一口大の丸いチョコレートが一粒だけ。まるで、宝石のように収められていた。

「ほんまにお高いやつやないですか。ええんですか?」

ここまで受けた所業も忘れて、綱紀は目を輝かせる。
こんな貴重品のようなチョコレート、テレビぐらいでしか見たことない。
恐る恐る、促されるままにチョコレートを手に取って。口の中に放り込んで。
その瞬間。

「むぐっ!?」

シウグナスに引き寄せられて、唇を塞がれる。
突然のことにうっかり貴重なチョコを飲み込んでしまいそうになって、慌てて舌で支える。

「まっ…ん…んぅ…ぅ…」

抵抗も許されず、侵入してきた舌先に翻弄される。
口内のチョコが転がされ、綱紀の熱で溶けたチョコがズルズルと吸い上げられていく。
チョコ自体の甘さと、口内を弄られる甘さに静かに悶えていると、チョコがはじけて中からトロリとした蜜があふれ出してきた。
洋酒が使われているらしく、芳醇で濃厚な香りが口いっぱいに広がる。
それからも深く、長く。口付けが続けられて。
双方の口の中からチョコの甘みが完全に消えてから、ようやく唇が離される。

「あ…はぁ…」
「なるほど。人間はこのようにチョコを味わうのか」

必死に息を整える綱紀に対して、シウグナスは満足そうに言う。

「もう…びっくりしたで…」

綱紀は、そう言うだけでいっぱいで。
洋酒の香りに酔ったのか。酸欠なのか。頭がくらくらする。
それに。

「落ち着かなくなったやないですか。責任、取ってくれるんですか?」

身体が熱くて。鼓動が早くて。もう、どうにもならなくて。
困ったように、見つめれば。

「もちろん。君の望むままに満足させてやろう」

抱き上げられて、寝室まで運ばれて。

「ところで君も何か買ってきていたみたいだが、いいのか?」
「あー、とりあえず今日はもうええですわ」

さすがにこれ以上チョコを食べたいとは思えなかったし、そもそもチョコバナナを突き付けられた段階でフォンデュの気は失せていた。
予定が変わった分、二人でチョコフォンデュを囲む以上に甘い時間を過ごそう。
そう決めて、ベッドに横たわった綱紀はシウグナスを引き寄せて。唇を合わせて、目を閉じた。

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