ほどけゆく夢
いつもの。日常の風景だった。
家に帰れば、お母様が出迎えてくれて。
勉強を教えてくれと、妹が泣きついてきて。
日暮れと共に父さんが帰ってきて、四人で食卓をかこむ。
テーブルの上には、豪華な食事が並んでいた。
並んでいる食事は、どれも自分の好物で。
家族はみんな、笑顔。
そのはず。だった。のに。
「君とはもう関係あらへんのや」
父さんが、笑顔を貼り付けたまま食卓から消えていく。
「もう会うこともないやろう」
お母様も、笑顔を貼り付けたまま、消えて。
「なんであんたの妹をやらなあかんのや」
妹もまた、笑顔で。
「まっ…」
立ち上がって。手を伸ばしても。届かずに、かき消える。
だだっ広い食卓。好物ばかりが湯気を立てる食卓。
なのに、そこにはもう自分以外誰もいない。
「ともこ…とうさん…おかあさま…なして…」
呆然と呟いても、答えなんて得られなくて。
そこで、御堂綱紀は目を覚ました。
「あ…」
暗闇の中、目をこする。
見えていなくたって、濡れているのがわかる。
カーテン越しに微かに月明かりが漏れていて、夜明けにはまだ遠そうである。だけど、もう一度寝直そうという気にはどうしてもなれなくて。静かに寝台から立ち上がる。
隣の寝台では、シウグナスが眠っていて。思わず、その寝顔を覗き込む。
薄闇の中に沈むシウグナスの姿は、精巧な人形のように美しかった。寝息を立てるどころか、呼吸すら感じず、どことなく顔色も蒼白くて。
「…っ」
急に、胸が締め付けられる感覚に襲われて。動悸が激しくなり、手が震えて止められない。
これでは。これではまるで。死んでいるみたいじゃないか。
シウグナスは吸血鬼で、不死だ。分かっている。理解している。はずなのに。
このまま、何年も目を覚まさないかもしれない。
湧き上がった不安を抑えることができなくて。頭の中は真っ白で。目の前は真っ暗で。ただただ立ち尽くしていた。
「どうか、したか…?」
声をかけられて、我に返る。
シウグナスが、目を開けて、自分を見ていた。
暗闇の中でも、マゼンタの瞳はくっきりと輝いていて。
「シウグナス…」
安心すると同時に、恥ずかしくなって逃げ出したい気持ちだったけれど、いつの間にか腕を掴まれていてそれは叶わなかった。そのまま引き寄せられて、寝台に倒れ込んで、シウグナスに抱きとめられる。
気付かれていないはずがない。震えが止まらないことも、涙が止まらないことも。
「大丈夫だ。何も不安に思うことはない」
シウグナスは、まるで子供をあやすように綱紀を抱き締めて、背中を叩き続ける。
綱紀は何も言えず、何もできす。身を任せるしかなかった。
また、闇の王さんに世話をかけてしまった。
シウグナスの腕の中、そんなことを思う。
シウグナスは吸血鬼で、不死だ。綱紀の寿命が尽きるまで側にいることは容易いだろう。だけど。
もしかしたら、一緒にいられなくなる日が来るかもしれない。自分の事に飽きて、心変わりして、去ってしまうかもしれない。
優しくされればされるほど、不安は募るばかりで。
もっと、しっかりしないと。
自分一人でも、生きられるようにしないと。
涙を流しながら、そんな決意を固めていた。
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