抑えきれない衝動
とても、乾いていた。
欲しくて。欲しくて、ほしくて。仕方がなかった。
とにかく部屋に駆け込んで。ひとりになって。
衝動を必死に抑え込むけれど、通り過ぎてくれる気配はない。
ほしい。血が。
吸血鬼である我にとって、それは生理的な欲求なのだろう。
だが、普段は眷属からの繋がりでまかなえている。
わざわざ人間の生き血をすするなど、非効率なくらいだ。
それなのに。
たまにどうしようもなく欲しくなることがあるのは何故なのか。
ヨミにいた頃は眷属から何人か招集して収めていたが、今は旅の途中でそういうわけにもいかない。
それに。
「闇の王さん、どないしはったんです?」
扉の外から聞こえる、愛する人の声。
迷惑はかけられない。
「…っ、大事ない。一人にしておいてくれ」
必死の思いで声を絞り出して拒絶するけれど、優しい君には逆効果で。
「全然大丈夫やないですよね?」
心配のあまり、扉を開けてしまう。
「来るな!」
叫んでも無駄で。
無防備に近づいてくるから。
もう、抑えきれない。
抱き締めて、剥き出しの首すじに牙を立てる。
口の中いっぱいに血の味と香りが広がっていって、ただ渇きを癒したい一心で喉を鳴らす。
驚きからか、痛みからか。君は身体をびくりと震わせて。
なのに次の瞬間、全てを受け入れるように身をゆだねてきて。
まるで赤子をあやすかのように頭を撫でてくる。
そんなことをされて、自分を止められるはずがなくて。
もっと。もっとと、深く。長く貪る。
「あ……」
小さな悲鳴と共に、頭を撫でていた手から力が抜けて。我に返った。
慌てて舌先で止血して解放してやれば、その身体も力を失い崩れ落ちていく。
すんでのところで抱きとめて、抱き上げる。
「なんや…急に目が回ってきたわ…」
君は気丈に笑ってみせるけれど、顔面は蒼白になっていて。
「綱紀…すまない…」
寝台にゆっくりと下ろして、血色を失った頬に手を当てる。
「あやまらなくて、いいです」
君は瞳を閉じたまま、そんなことを言う。
何かを求めるように手を伸ばしてきたから、握ってあげれば弱々しい力で握り返される。
「闇の王さんが吸血鬼やいうこと、忘れてましたわ。自分こそ、気付いてあげられなくてすいませんでした」
どうして、君が謝るのだろう。
いつだって、私の都合に振り回されているのは君の方なのに。
「それに」
君はうっすらと瞳を開けて私を見る。
琥珀色の瞳がきらりと、いたずらっぽく光って。
「嬉しかったんです。俺でシウグナスを満たしていると思うと、なんや、興奮してしまいました」
恥ずかしそうに笑う君にたまらなくなって。
思わず、唇を重ねていた。
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