衝動を受け入れる
とても、心配だった。
貴方の様子が、おかしかったから。
そわそわと落ち着きなくて。周りが何も見えてなくて。自分に余裕がないような。そんな感じで。
宿を取るなり部屋に駆け込んで。閉じ籠ってしまった。
どうすれば、ええやろうか。
初めての事態に、戸惑う。
どのみち宿の部屋は相部屋で、いつかは顔を合わせんとあかん。
貴方の意思を尊重して、少し外を歩いてきた方がええやろうか。
一瞬だけ考えて、すぐに却下する。
貴方が隣にいないと、何だか寂しいし。
自分が目を離している間に、貴方の身に何かが起こるのは。嫌や。
やはり、様子を見に行くべきやろう。
「闇の王さん、どないしはったんです?」
扉の外から、声をかける。
様子が知りたい。
「…っ、大事ない。一人にしておいてくれ」
少しの動揺の後、返ってきたのは予想以上に余裕を感じられない声で。
「全然大丈夫やないですよね?」
扉を開けて、部屋に入る。
「来るな!」
制止の声は無視する。
貴方の身に何が起こっているのか知りたいから。
だから、驚いたのは一瞬だけ。
抱き寄せられて、首すじに痛みが走って。
自分の中から体液が抜けていって、貴方がこくりと喉を鳴らす音を聞いて。
ああ、そういうことやったんや。
理解して、納得してしまえば、全てを受け入れるしかなかった。
夢中で自分を貪ってくれる貴方が愛おしくなって、頭を撫でる。
自分の血肉が貴方の一部になると思うと、胸が高鳴っていって。
もっと。もっとあげたい。そう、思って。
「あ……」
急に目の前が真っ暗になって、力が抜けて。思わず小さく声を上げていた。
少しの間だけ気を失っていたらしく。
気が付くと、貴方に抱きかかえられている。
「なんや…急に目が回ってきたわ…」
心配させまいと笑ってみせたけれど、視界がぐるぐるして身体が言うことをきかなくて。
「綱紀…すまない…」
寝台に優しく横たえてくれながら、苦しげな声であやまるから。
「あやまらなくて、いいです」
頬に触れてくれる手の心地良さに、瞳を閉じたままそう伝える。
もっと触れて欲しくて手を伸ばせば、もう片方の手でそっと握ってくれる。
「闇の王さんが吸血鬼やいうこと、忘れてましたわ。自分こそ、気付いてあげられなくてすいませんでした」
全部、自分のせいだった。
いつだって、自分の感情に振り回されているのは貴方なのに。
「それに」
うっすらと瞳を開けば、貴方と目が合う。
魅了の力を使っていなくても、マゼンタの瞳はきらりと輝いていて。
「嬉しかったんです。俺でシウグナスを満たしていると思うと、なんや、興奮してしまいました」
そう言うと、貴方は唇を重ねてきたから。
再び瞳を閉じて、受け入れた。
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